概要

近年,情報化社会の進化が急速に進んでおり,"IoT"や "AI","ビッグデータ"など,情報に関する専門的な分野が一般社会への広がりを見せている.利便性や可用性が求められる中,情報インフラへの依存度が高く,その安全性をしっかりと確保していかなければならず,その研究は必要不可欠である.暗号分野において,特に注目を集めているものが共通鍵暗号であり,ストリーム暗号はその一種である.ストリーム暗号は,データの長さに依存せずに逐次暗号化できる特性を持ち,その中の一つに ChaCha がある.現在新たに標準化されたインターネット通信暗号化技術である TLS1.3 では,20 ラウンドの ChaCha20 が,ストリーム暗号で唯一採択されている.しかしながら,ChaCha に対する安全性解析は十分行われているとはいえない状態である.ChaCha は,Salsa20 の改良版として提案されており,Salsa20 に対する解析を行うことは,ChaCha の構造的解析や統計的解析において重要であると言える.Salsa20 及び ChaCha に対する最も成功している攻撃は,Salsa20/8 に対する計算量 2^244.9,データ量 2^96 が必要である.本研究では,既存研究において,差分研究と組み合わせて使われている PNB という概念が,攻撃に必要な計算量を削減することに初めて注目した.PNB は,出力バイアスに関係する鍵とそうでない鍵を分割する概念である.出力バイアスに関係しない鍵の数が大きくなる条件を発見すれば,効率の良い攻撃が可能である.本研究ではまず,PNB に関する詳細な解析をし,PNB が増える条件は,出力差分位置によることを明らかにした.また,その条件において鍵回復攻撃を行い,Salsa20/8 に対して,計算量 2^139.5,データ量 2^50.5 で攻撃可能となることを示した.

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