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    ”実用的なデジタル署名の設計と解析”


     電子署名とは,署名者固有の情報を用いて電子的なデータを変換することにより 作成されたデータであり,ユーザ認証,メッセージ認証,否認防止という機能を 実現できる.本研究では,従来の署名方式を改良することによって,高い実用性 を有するとともに,数学的に定義された署名の安全性に対して,証明が可能な電 子署名システムの構築を目的としている.具体的には,以下に示す3種類の課題 について研究を行なった.

    - 数論に基づく新しい問題の提案とその応用
     実社会では素因数分解問題に基づく署名方式が主流を占めている.また素因数 分解系の問題に関して,これまでに多くの新しい問題が提案されており,それら の問題に基づく有益な署名方式が構築されている.
     本研究では,これらの研究成果をさらに推し進めるため,RSA問題,位数探 索問題という2つの素因数分解系の問題に着目し,RSA問題に変更を加えた2つ の問題および位数探索問題に変更を加えた問題を新しく定義した.また,これ らの問題がどの程度難しいかを,関数間の帰着関係という手法を用いて考察し た.さらに,既存方式を改良することにより変形型RSA問題に基づく効率的な 署名方式を提案した.既存方式の場合,安全性を証明するためには,利用する ハッシュ関数に関してある種の強い仮定が必要であった.一方,提案方式には これらの仮定を必要とせず,実装環境下において,より厳密な安全性の考察が 可能になった.

    - 電子署名の高速化に関する研究
     電子署名の作成に必要な計算は,メッセージが与えられる以前から計算可能 な「off-line計算」と,メッセージが与えられてはじめて計算が可能となる 「on-line計算」の2種類に分類できる.ここで,on-line計算はoff-line計算 と異なり,リアルタイムの処理時間に影響を与えるため,on-line計算の効率 化は電子署名の高速化を実現する.本研究はこの点に注目して,高速な2種類 の署名方式を提案した.2つの方式のうち,一方はon-line計算において剰余を, 他方は乗算を削除することによって高速化を実現している.また,前者は既存 方式が有していた秘密鍵の構造に関する問題点を改善することによって得られ た方式であるのに対し,後者は既存方式となる方式は存在せず,on-line計算 において乗算を削除した高速化手法の提案は今回が初めてとなる.さらに,変 形型位数探索問題に関する研究成果を用いることによって,off-line計算が高 速化された方式に関する厳密な安全性の考察を実現した.

    - メッセージ復元に基づく新しい委任署名方式
     委任署名とは,署名者が署名の権限を第3者に委任し,委任された機関が署 名を行う方式である.従来の委任署名に関する研究では,代理署名者による署 名権限の逸脱を防ぐため,署名依頼者が署名作成の期限や,署名できるメッセー ジの種類等が記載された保証書を発行し,検証時に,検証者がこの保証書の正 当性を確認する方式が提案されている.しかしながら,この方式の場合,検証 者は検証時に代理署名者から保証書を送ってもらう必要があり,このことは伝 送量の増大を伴うという短所が存在した.本研究では,この問題を克服するた め,従来の委任署名を拡張した新しい概念を提案した.この概念の特徴は署名 検証時において,検証者は署名依頼者が意図したメッセージが復元された場合 に限り署名文を受理するというものであり,これにより検証者は署名検証時に 必要な通信情報量を軽減することができる.また,上記の概念を満たす2種類 の委任署名方式を提案した.2つの方式のうち,一方はRSA問題に,他方は離散 対数問題に基づく方式である.


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