渡辺 瞭
情報通信技術の急速な発展を受け,現代社会の情報化は勢いを増している.情報化社会を支える技術の一 つに暗号技術が挙げられる.暗号技術は,電子データの機密性や完全性,可用性の保持に必要不可欠な技 術である.暗号技術には,暗号鍵と復号鍵が同じ共通鍵暗号と,暗号鍵と復号鍵が異なる公開鍵暗号があ る.共通鍵暗号は公開鍵暗号に比べデータ処理速度が速く,ビッグデータの処理などに利用されている.し かし,共通鍵暗号はその安全性を証明することが難しく,暗号の安全性を高めるための脆弱性解析が盛んで ある.ChaCha は共通鍵暗号の一つで,TLS 1.3 に選ばれた暗号方式である.ChaCha に対する解析手法と して,差分解析と呼ばれる方法が数多く行われてきた.差分解析は暗号システムの入力/出力差分間におけ る確率バイアスに注目した手法である.また近年では,差分解析に状態遷移前後の状態における線形関係 を利用する線形解析を組み合わせた差分線形解析と呼ばれる手法が提案された.本研究では ChaCha に関 する新たな線形関係を導出し,より高い確率バイアスを実験的に示した.さらに,新たな線形関係に対応 した入力/出力差分の組み合わせを発見し,その確率バイアスについても実験的に示した.また提案したバ イアスを用いた場合,既存の ChaCha に対する解析で最も小さかった計算量を改良し,7 ラウンド ChaCha に対して計算量を 2221.95 から 2132 に削減し攻撃できることを示した.